食熱通信vol.26
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食の熱中事務局
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2026年5月20日

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いよいよ第6期が始まり、授業の前に入学式が執り行われましたました。今回は28人の新しい方々を含め、88名の生徒さんをお迎えしました。おめでとうございます!
日時: 2026年4月22日(水曜)18:30~
会場: ユビキタス協創広場 CANVAS (八丁堀教室)
学級委員・司会:堂野前 康さん
式辞: 校長 柏原 光太郎 先生 ・入学証書授与& 生徒代表挨拶 : ① 在校生代表: 吉田和樹さん ② 新入生代表: 小野英子さん





座学: 2026年4月22日(水曜) 18:30 ~ 21:00 会 場: ユビキタス協創広場 CANVAS
*テーマ 「私たちの海と食の未来のために、今必要なこと」
*講師 佐々木ひろこ 先生 (一般社団法人Chefs for the Blue 代表理事、 フードジャーナリスト)

◆長くフードジャーナリストの仕事をしており、各所での講演や、英語も含めた書籍やさまざまな雑誌、また航空会社等の機関誌作りに携わってきました。10年ほど前から海の課題に向き合い始めてChefs for the Blueという団体を立ち上げ、水産資源を保全し私たちの食文化を未来につなげる活動をしています。Chefs for the Blueのロゴは、漁網であり山でも波でもあり、山から川を通じて海に注ぎ込む水の流れも表現しています。その波間には、この大きな循環の中に生かされている魚たちがいて、さらに90度傾けると人もたくさんいます。私たち人間は、この大きな自然の中に生かされていると同時に、私たちの自然に対する働きかけや関わり方次第でこの大きな循環すらも変わってしまう、そんな壮大なストーリーをこのロゴに込めています。


◆20数年間、”おいしさ” を追求してレストランや多くの食材の現場を見てきましたが、魚に関しては築地の魚の目利きの話くらいで、なかなか漁師さんや浜の仲買さんの話を聞くことはありませんでした。というのも、まき網や冬の日本海の底引き網船など1ヶ月に2、3回しか出ないこともあるぐらい、漁に出るかどうかは海の状況に左右されます。カメラマン、編集者、ライターを連れて取材に行っても3日間漁に出ないことも普通にあり、そうなると月刊誌が何ページも飛んでしまうため、取材は市場に終始していました。それが10年ほど前、初めて半年間漁業に張り付いて取材する機会を得てやっと現場を理解したのです。日本の海からどんどん魚が消えていて、漁獲量がピーク時の3分の1以下、4分の1ぐらいまで減っていることを知り、おいしさが未来まで続かないことに恐怖を覚え、海について取り組むことを決心しました。シェフ達に、海のこうした現状を知っているかと聞いて回ると、値段が上がっている、とか、大きい魚が減り小さくなっている、と言う。後で知りましたが、大きい魚を獲り尽くして幼魚にまで手を付けているというのはまさに危ないサインです。これでは10年後に自分のスペシャリティが作れない、若手が将来店を出せない、と料理人たちの顔色が青くなり始め、まずは皆に知らせることから始めよう、と2017年5月に初めて料理人30人で勉強会を開きました。忙しいシェフ達の時間が合う営業後の夜中12時スタート、朝3時終了という形ではじめたこの勉強会を起点に、のちにChefs for the Blueが立ち上がり、今年でかれこれ10年目になります。
◆日本は水産大国、お寿司の国ですが、日本の海の特徴はあまり知られていないですよね。まず日本の陸地面積は世界で61番目です。今世界に200ぐらいの国や地域がある中で61位というと小さくもなく大きくもないですね。これが海となると、日本が持つ排他的経済水域(EEZ)の面積の大きさは、世界で6番目です。ここにある資源は日本以外の国は使えません。魚も日本しか獲れません。もう1つ、日本の海水の体積の世界順位は4位です。日本には深い海が多いのです。ちなみに1位はアメリカ、2位はオーストラリア、3位がキリバスです。島国は四方に海があるために順位が高くなるんですね。
◆数の話をしましたが次は質の話をします。日本は海流が4本もあり、しかも寒流も暖流もある。これは世界でも非常に珍しい。北太平洋をはじめとする豊かな海から海流にのってやってくる魚がたくさんあります。たとえばサンマは秋が旬ですが、これが親潮の千島海流に乗って北から下りてきます。実はサンマは太平洋を回遊していて、夏の間、ミネラルが多くプランクトンがたくさん湧いて栄養の多い北太平洋へ上がります。動物性プランクトンをたくさん食べてお腹が太りメタボになった状態で、寒くなると千島海流に乗って南に下りてきて日本のEEZに入ってくる。それが私たちのサンマの旬なのです。大きな群れを作ってこうして海流に乗って流れ着く魚を回遊魚と言い、たくさんあります。北から来る寒流の魚はタラ類やサケ、サンマなどです。マサバ、ゴマサバ、クロマグロ、アジ、カタクチイワシといった青い魚の多くは南から来る暖流の魚です。それ以外に、瀬付きなどと呼ばれる、大きくは動かない種類の魚たちがいます。日本人は約400から500種類の魚を食べていますが、そのうち回遊魚は少なく、大部分は動かない魚です。たとえばマダイやサワラはせいぜい数県分ぐらいしか動きません。ハタ、貝、エビ、カニなどの多くも動きません。日本の沿岸で卵を産み稚魚から大きくなり、その海域で魚生を終えるものがほとんどです。多くの山から川を通じてミネラルが流れ落ち、その河口に植物性プランクトンが湧き、今度はそれを食べる動物性プランクトンが湧き、それを食べる小魚がその河口に湧き、それを食べて一生居着く大きな魚がいる。回遊魚と瀬付き魚の違いだけでなく、島国である日本は、北は流氷が流れ着き、南の海にはサンゴがあり、まっすぐな海岸線もあればリアス式もあり、岩礁の海、砂地の海、遠浅の海、いきなり深くなる海など多様な環境があるからこそ、多様な魚種が生きられる状況が生み出されます。
◆生物としての魚の次は、食材としての魚の話です。魚には、生物としての魚、商材としての魚、食材としての魚、資源としての魚という4つの側面があります。食材でこの4つを持つのは魚だけです。16世紀当時最も栄えていた大阪の街に魚市が作られました。本当にいろいろな魚があり、魚だけを扱う市場がこの当時からあったことがさまざまな絵からわかります。そしてこの約100年後に江戸幕府ができ、今度は江戸に魚市ができます。町人たちやお店商売の人たちはここで魚を買い、家で料理したり店で料理を出したりしていました。愛媛の大名が作った「衆鱗図」という魚類図鑑が発刊されたのですが、これが本当に美しくて美味しそうな魚がいっぱい載っています。ドイツやオランダでも同時期に魚の図鑑が作られましたが内容が全然違い、これらは生物学者たちが港や海で採取した魚を書いたもの。「衆鱗図」は市場で書かれたもので、600種類もの魚が載っていたんです。それだけ市場に集まっていたのはすごいことですし、いわば食材図鑑として描かれていたわけですから、私たちの祖先は食いしん坊だったことがわかりますね。

◆魚は日本の大切な宝物、資産です。インバウンドの人たちは去年9兆円を日本に落とし、そのうち食べ物に使われたのは2兆円超。もちろん日本は農産物も畜産物も全部おいしいのですが、実際に食べた料理を挙げてもらうとぶっちぎりの一位は寿司で68%。やはり目当ての一番は魚
になってきます。ラーメンも昆布やいりこが使われてますし、各地の郷土料理を無作為にあげてみても、はらこ飯、白鮭、函館のイカソーメン、宮崎のアジの冷や汁、ひつまぶし、下関のてっさやてっちり、広島の穴子飯、ノドグロの塩焼き、あさりを炊き込んだ東京の深川めし、、とおいしい魚料理が続きます。でも、こうした料理が30年後にあるかどうかわからないのです。残念ながらすべての魚種が深刻であり、危機はそれほど身近に迫っています。
◆ここから、世界有数の漁場と豊かな魚食文化を持つはずの日本に今、起こっていることをお話しします。遠洋漁業、沖合漁業、沿岸漁業といった海面漁業と養殖業で見た、遠洋を除いた日本の海の生産量の推移は、1984年の1282万トンがピークでその後は降下の連続です。沿岸だけを抜き出してみても、まさに減少一直線。今年はお寿司の魚種を調べたところ、約60魚種のほとんどが沿岸の魚種で、それらのほとんどが減少しています。各魚種の1995年の漁獲量を1とすると四半期後の2020年には何倍になったかというと、サケは0.22倍で、2026年の今はその3分の1です。サンマは0.11倍で多分今は半分程度。あさり、あなご、たちうおも同じ状況です。漁獲量は資源量ではなく獲れている数字なので、イコール海の中の魚が少ないことではないのですが大体の指標にはなると思います。
◆減少の理由はなんでしょうか。大体6つに集約されます。一番大きいのが国土開発です。沿岸が著しく開発され、干潟が埋められ護岸が工事され、ダムが作られ新しい道路ができました。干潟がなくなれば貝類は壊滅します。もちろん私たち人間にとっては恩恵があることなのですが、魚たちにとっては生息できる環境がどんどん減ることに他ならないのです。2つ目は、魚の獲り過ぎです。魚は毎年自分で卵を産んで増えてくれますが、卵を産むスピードより速く獲ってしまえば減るわけです。3つ目は化学物質やゴミなどによる汚染です。4つ目はプランクトンなどのエサ不足です。これは、山が荒れるとミネラルが降りてこない。木を針葉樹に変えられて落葉がないので土に分解されるものがなくミネラルが生まれない。もしくはダムを1つ作ることでいろいろな生態系が変わる、そうした多くの悪循環に紐づいた結果になります。5つ目は、公海や周辺海域における他国の漁獲の影響です。ごく一部ですが、魚種によっては日本の海域外での漁獲量が日本の漁獲量に影響することがあります。例えばサンマは北の公海を通って日本の海に下りてきますが、その前に獲られてしまうと当然日本の海域にあまり入ってこなくなります。中国や韓国と国境を接している日本海側は、スルメイカやタチウオなどがあっちに行ったりこっちに入ってきたりしていて、向こう側に行った時にたくさん獲られてしまうことがあります。6つ目は温暖化です。ここ10年、15年の影響はすごく大きいです。魚は変温動物なので水温が1度上がると人間で10度ぐらい上がる感覚だそうなので、上がるとどんどん魚は北上します。例えば最近北海道でマンボウやトラフグが上がったのもそうですし、去年私が網走で定置網船に乗った時にサケが入るような場所でブリばかり入っていたのもそうです。また温暖化による海水の変化も影響します。温暖化の原因は空気中の二酸化炭素量の増加ですが、二酸化炭素が海水に溶け込むと海は酸性化します。炭酸水は水に二酸化炭素を溶け込ませたものですが、炭酸水は酸っぱいですよね。その状態です。一番影響が大きいのはエビ、貝殻、カニです。カルシウムでできている外側の殻が軟化したり脱皮できないといった危機的な状況が生まれています。ただ、新たに南から上がってくる魚種もあって、日本の海が育む魚の種類がどんどん変わっている状況もあるので、嘆いてばかりでなくそうした魚とどう付き合っていくのかを考えていければと思っています。

◆水産物は天然の資源です。資源とは、自然界から人間が取ってきて人間が使うものを指す経済用語です。キャベツは資源ではないけどアジは資源。牛は資源ではないけどジビエは資源です。今問題の石油は先行き限りある埋蔵量の話になっていますが、魚は唯一、自分自身で増えてくれる経済資源なのが素晴らしいところです。銀行預金の利子だけでサステナブルにずっと食べていけたのが、これからは元本を切り崩しあとは坂道を下るようになくなっていくのです。減少する理由の中で、人間がすぐでも取れる行動として漁獲制限が一番注目されています。しかし日本はまだ非常に遅れています。政府はつい最近2020年に漁業法を改正し、漁業法第一条に日本の法律で初めて持続可能性という概念を取り入れました。それまでの漁業法は、戦後食糧がなく多くの兵隊も帰還しタンパク質の増産が必要な時代で、とにかくたくさん獲ることが大事で水産物や魚の生態を守るという考え方はなかったのです。2020年以前から活動していた私たちは改正により何とかなると安堵したのですが、獲り過ぎを防ぐということは漁業者さん達にとって魚を獲るなということであり収入に直結するため、水産業を10 年や20年後と長期に続けていくために必要でも、実際に納得いただくことは極めて難しいのです。結局獲りすぎを効果的に防げている魚種はごくわずかで、今も総漁獲量は減り続けています。もう一歩大きな変革が必要です。水産予算は3000億円程度でとにかく少ない中、漁業者保証や漁港整備等全部入れてこれでどう守るか。この額や管理予算を増やそうと必死に議論が続いています。

◆このような話をすると、天然の魚を食べるのは良くないですね、養殖魚を食べるべきですよね、と皆さんおっしゃられます。ですが天然資源を守るために養殖魚を食べるというのは日本の場合、正しくないのです。養殖魚というとブリ、カンパチ、シマアジ、トラフグ、クロマグロといったあたりが頭に浮かびますが、これらはいずれも肉食の魚で生態系ピラミッドの一番上にいる魚です。ライオンや虎を養うのにシマウマやウサギを食べさせるように、日本の養殖魚の場合、クロマグロを1kg増やすためにはサバ15kg、ブリを1kg太らせるためにはイワシを中心とした餌3kgキロが必要です。つまり、養殖することでタンパク質の総量を減らすことになっていますよね。さらに種苗といって、赤ちゃん魚も天然から獲るケースが極めて多いです。ブリが典型で、クロマグロも大体海で赤ちゃんマグロを獲ってきて池に入れて太らせます。鰻も100パーセントがそうです。この赤ちゃん達は、一生卵を産む機会もなく人間に食べられてしまう。これでは魚は増えないですね。また養殖は、環境への負荷もあればエネルギーも使います。特に陸上養殖には、本当に大きなエネルギーが必要です。養殖魚を食べることが天然資源を守ることにはつながらないことがわかりますよね。もちろん養殖業のいいところもたくさんあります。安定して生産できますから、私たち消費者にとってはスーパーに行けば常に真鯛やブリが買える安心感があります。養殖業が悪いというより、サステナビリティの文脈で養殖魚が解決策とされるロジックが正しくないということなのです。
◆ここに、日本の主要32港で獲れるサバとマイワシの用途別出荷割合のデータがあります。去年マイワシは45万5千トンほど獲れ、うち生鮮食料向けは13%、養殖向けが42%、魚油が38%。魚油も養殖に必要で、DHAがたくさん含まれていて養殖魚の餌に必ず入れないといけないものです。つまり全体の80%ぐらいが養殖の餌に使われています。サバは19万トンほど獲れてそのうちの60%ぐらいはすべてクロマグロの餌です。クロマグロは結構グルメでなかなか配合飼料を食べてくれないので、サバを丸ごと投げて食べさせます。そのためもあって、サバ類はほとんどが棒サバとかローソクサバと業界で呼ばれる小さなサイズのうちに獲られてしまいます。クロマグロの餌に最適なサイズなんですね。そして売り切れなかった分がこの4割ある加工や生鮮用途で、このうちのかなりの割合がアフリカ諸国と東南アジアといった海外に1キロあたり150円程度で輸出されています。彼らはトマト煮にしたりして食べます。皆さんはスーパーで日本のマサバを見ませんよね。最近はイギリス産やアイスランド産あたりも見かけますがほとんどがノルウェー産です。去年27万トン獲れていながら私たちの口に入ってこないのは、こうした漁業の現場が背景にあるわけです。
◆世界の漁獲量と水産養殖業の生産量を示すグラフがあります。まず漁業量は頭打ち。これは一定程度で獲り続けている意味なので良いことです。海面養殖量がすごく増えています。川や池などの淡水で行う内水面養殖が日本は全然増えず、もっと力を入れてもいい状況です。世界の養殖で一番増えているのはコイ、フナで、魚類養殖生産量全体のうち65%がコイの仲間です。淡水の雑食と草食の魚で最もエネルギー効率がいいからですね。魚粉も少なくて良いので圧倒的にコスト安で増えています。紅藻類や褐藻類も餌は不要ですから、吊っておけば光合成して大きくなってくれます。食用もありますが化学製品にも多く使われています。カキやアサリといった二枚貝も餌は不要で植物性プランクトンを食べますので環境適性のある海の中に吊っておけばよく、これもコストが安く伸びています。草食の魚のティラピアは中国や南米でよく養殖されている魚です。サケ、マスは海水魚で雑食ですが非常に効率の良い魚で、彼らは1.1キロの餌を食べると1キロ増えてくれて超優秀なので伸びています。このように、この中にブリやクロマグロは出てきません。やはりコストが見合わなかったりエネルギー効率に問題があるからでしょう。このように漁業にはいろいろな裏側があります。

◆Chefs for the Blueは一般的な環境保全団体ではありません。環境保全は本来、 “獲らない、食べない” がベストなのでしょうが、私たちは食べ続けながら守るアプローチです。シェフは東京と京都で約42名がコアメンバーで、オンラインでは350名ほどいます。フレンチ、鮨、中国料理、イタリアン、和食とジャンルもいろいろです。皆さん本当に熱心に活動しています。シェフが食の課題解決に向き合う理由は2つあります。1つは、料理人はすべてをつなげられる人だからです。料理人は2本の手を持っています。1つの手は食材の生産者さん達とつなぐ手、もう1つは食べ手である私たちとつなぐ手です。食のサプライチェーンの中でこれができる存在は多くないのです。特に漁業は産地と食べ手が遠くレイヤーも多く、食べ手の立場からは現場が見えにくい。みなさん、お米農家さんやみかん農家さんの姿はなんとなく想像できるかもしれませんが、まき網漁業者さん、刺し網漁業者さんは思い浮かべられないと思います。日本が世界一の水産大国だった歴史があり、漁業者さんの獲る技術や流通も世界一であることも知られていない。それを、皆をつなげて教えることができるのが料理人だと思っています。SNSを含め社会への発信も得意で、Chefs for the Blueでも毎日誰かしら取材を受けていて、直接関係ない時でも海のことを話してくれていますね。彼らのおかげで社会に影響を与えることができています。
◆もう一つの理由に、私自身は、食材の使い手である料理人たちとこの海の活動がしたいと考えたからです。ジャーナリストとして多くのトップシェフを取材したり、レストランアワードの審査員などもして、20年以上ずっと流れを追ってきて言えるのは、2000年代に入って欧米のトップシェフたちが次々と社会の課題解決活動に取り組むようになりました。シェフだけでなくアーティストであれアスリートであれ経営者であれノブレス・オブリージュの使命を持って活動しています。フランス・ブルターニュの元三ツ星シェフ、オリヴィエ・ローランジェさんは、欧米におけるサステナブルなシーフードの調達の一番の旗振り役です。何度も世界一になったペルーの「セントラル」のヴィルヒリオ・マルティネスは、アンデスの高山に育つ多様な植物の原生種が温暖化で次々と絶えていく状況に対し、人類とその生態系の未来にとってこの原生種の遺伝子を残すことは絶対に必要だと考え、彼のさまざまな活動の一環として地元の研究者たちとリサーチセンターを作り、種を残しています。イタリアのモデナにあり今銀座にも支店がある「オステリア・フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラは、ミラノ万博の施設で出たフードロスの食材を全部集め、ミラノ中央駅の隣にレストランを作ってロス食材を使った料理を作り、ホームレスの人たちに無償で提供する活動をしています。今も続いていてパリにもできました。タイのボー・ソンウィサワは、タイでオーガニックの農家さんが増えているのになかなか売れないので、バンコクにオーガニックマーケットを作り、消費者とその生産者をつなぎました。「ノーマ」のレネ・レゼッピは、社会貢献という意味では多分一番やってきた人の1人です。アメリカでは「ブルーヒル」のシェフのダン・バーバーがさまざまな活動をしています。でも私自身は、志も、技術も、生産者さんを思う心も、日本の料理人が世界一だと思っています。彼らは本当に素晴らしい。ただポテンシャルはあっても語学の壁と、圧倒的な忙しさのために課外活動ができません。日本のレストランは利益率が極めて低いので、手が足りずなかなか店の外で動けないのです。そこで私はこの海の活動をするにあたり1人のシェフではなく30人と手を携え、できる人ができる時にできることをやり、30人でインフルエンスを出していけばいいと考えてChefs for the Blueを立ち上げました。

◆私たちの活動領域の柱は、政府、生活者、飲食業界そして次世代の4つです。政府には毎年政策提言を行なっています。政府も使い手側の声が欲しいのです。行政としてはいろいろな声を平等に聞かないと政策に反映できませんが、これまで使い手の声が聞けなかったのです。当然厳しい意見もしますが、是非続けてほしいと言われています。
◆生活者向けの活動としては、年に1回シェフたちがほぼ全員集まり渾身の魚料理を300名のゲストの皆様に提供するシーフード料理フェス「THE BLUE FEST」を開いています。皆様もご興味あればぜひご参加ください。また「ビストロえのすい」は、新江ノ島水族館のメイン展示の大水槽の前にテーブルを並べて食事をしながら、私たちの食卓が海とつながっていることを知りその海を守ることについて考えるイベントです。調理施設がないのでカセットコンロを持ち込んだりして結構大変ですが、シェフたちはすごく楽しんでやっていますね。その他、ブランディングや商品開発、行政と組んで漁業者さんの意識を変えるためのシンポジウムの開催、コミュニティの運営もしています。メンバー約350名中250名は飲食店関係者ですが残りの100人は食が好きな一般の方です。皆さんも是非コミュニティに入っていただいてはいかがでしょうか。全国の漁場へのフィールドトリップもたくさん行っていて、料理人と使い手と生産者がダイレクトに物理的につながり、意見交換しています。
◆次世代向けとしては、毎年4ヶ月間の教育プログラム、「THE BLUE CAMP」を運営しています。海の課題に関心を持つ16名の専門学生、大学生を東西で募集し、研究者や専門家の講義や水産現場へのフィールドワーク、Chefs for the Blueのトップシェフによる研修を行い、その後は東京・京都のチームに分かれて「海の未来を作るレストラン」の企画と試作をしてもらいます。最後は6日間の期間限定でレストランを開き、約250名の来場者に、料理とプレゼンテーションを通じて海の課題と理想の未来への道筋を伝えることがゴールです。海の課題に本気で向き合う4ヶ月を経て、毎年すばらしい仲間が育っている実感があります。本日はありがとうございました。


実習ツアー
5月16日の土曜日、素晴らしい青空のもと、第六期生徒さんとそのゲスト、先生たちが約70名参加し、横浜の高台でガーデンパーティが行われました。事前に収録して配信した6期第2回竹内大学先生による講義を語り合う場でもありました。

竹下大学さんの30分実習付き授業登壇時間があり、実習として、スイカの試食比較試食。

1. 日本人が最初に栽培化した作物は「栗」です。約9000年前、アク抜きが不要で栄養価も高く縄文人の主食となり住居の周りに栗林を作り栽培してきた中で、野生の小さな芝栗から現代の大きな品種へと変化しました。私たちの遠いご先祖様たちがやってきた事実を知ると、次に栗を食べる時、9000年の積み重ねへのありがたみを感じるでしょう。江戸時代の浮世絵には、日本橋で荷を運ぶ樽に「剣菱」のマークが見えます。これも同じで、なぜか「剣菱」を味わってみたくなったり、その先に味覚を超えた「おいしさ」が芽生えてくるはずです。
2. 農作物のおいしさは誰が決め、今どのレベルにあるでしょうか? 既に多くの人は「もう十分おいしく、劇的な進化は過ぎた」と考えています。これからは前提条件を変えましょう。おいしさを決めるのは「自分」です。舌だけでなく、器やその周辺の「物語」や「歴史的史実」を知り、脳や心でも味わうことで、おいしさは新たな成長曲線を描き、もっとおいしくなります。
3. 私は「新たな食の楽しみは、品種と歴史の掛け算から生まれる」と言い続けています。これが今日一番お伝えしたいテーマです。これを知ったら農作物はもっとおいしくなり、食材に対しもっと感謝の気持ちが高まりますから。
4. 同じ食材を扱いながらも、食品業界と農業界の間には壁があるというのが実感です。理由のひとつは、品種が開発され種や苗が増えて生産者が生産し商品になって流通する過程において品種名が伝わらないことが多いためです。そのため、食品業界は品種の名前に関心をあまり示さず、品種名に価値を感じずに来てしまいました。
5. 農作物でこの品種が一番と言えるほど好きな品種はありますか? 自分が本当に好きな品種を見つけて、死ぬまでその品種をたくさん何回も食べた方が人生幸せになりますよね。人類が意図的に交雑育種が始めたのは18世紀に入ってから。日本では明治維新以降です。品種改良を行う育種家は、「人類の役に立つために生き物をデザインする探検家」と言えます。育種家であり、トーマス・エジソン、ヘンリー・フォードと並び称されるアメリカの三大発明家の一人、ルーサー・バーバンクは、不味かったジャガイモを「ラセットバーバンク」という素晴らしい品種に改良しました。これが現在、世界中のマックフライポテトに使われています。日常のポテトの背景に彼の情熱を知ったら、その味はより深みを増すでしょう。彼は「育種家は無限界に侵入する探検家である」という素晴らしい言葉を残していて、僕が品種改良の仕事をやっていた時励みになっていました。
6. 農作物が食に与える価値として、栄養機能、嗜好機能、生態調節機能という食の3大機能がありますが、そこへ2つ加えて5大機能で考えてみましょう。1つは国や地域ごとに食べるものや味付けが違い、お祭りや行事などによっても変わる「食文化」。もう1つは、人が集まって同じものを一緒に食べることで人と人との心の距離が近づく「コミュニケーション」です。この5大機能はウェルビーイングに直結していると考えます。そしてすでにお話したように、食材や料理に歴史的史実を足して味わうとよりおいしくなるでしょう。たとえば明治政府が日本人の体格向上のために普及を試みたトマトやタマネギのような西洋野菜は、当初抵抗感のあった日本人は出汁や味噌・醤油の味付けで工夫して自分たちの食卓に取り込んできました。またスイカの大産地だった奈良では、米国品種「アイスクリーム」との偶然の交配から甘いスイカが生まれ、これが出発点となってスイカがおいしくなり、日本中に広まりました。今でもスイカの種子の約8割は奈良県産です。こうした歴史や品種の物語は、至る所に眠っています。
7. 今日の会場の横浜・鶴見の地域は、関東で最初にキャベツとトマトが栽培された地なのです。畑の場所までわかっています。鶴見駅のすぐ近くです。そしてやはり近い新子安は、そのトマトを生かして日本初のケチャップが誕生した場所なのです。
令和元年の一円玉が思いがけず高い価値を持つように、知らないことでその価値を見逃していることが世の中には溢れています。農作物も同じで、知らないだけで損をしていることがいっぱいあります。料理そのものだけでなく、それを構成する食材や品種のルーツ、歴史という「時間」をまるごと味わってみてください。そうすることで、皆さんの日常の食卓は、もっと豊かで、もっとおいしいものに変わっていくはずです。



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会場ではホスト役の山田玲子先生と生徒の堀田縁さんを中心とした調理チームによるおいしい料理やお持ち込み頂いた数々のお料理が並び、出席者は舌鼓を打っていました。



また、バザー、マルシェでは能登の食材や書籍、工芸品などが並びました。


陽光の元、さわやかな5月の風を浴びながら、テントの元に集い、話も弾みました。






ヴィノス山崎さんによるノンアルコールワインの試飲




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ツアー報告:北海道余市 3/21-22 伊藤薫さん








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事務局より:
今回は、人が生きていくための基本的な要素「衣食住」の話をしてみます。便利さと豊かさを手に入れた現代では、単なる生活基盤ではなく、その人の価値観や生き方を映し出すものへと変化しているように感じます。もちろん、世界には今なお衣食住が十分に満たされていない地域もありますが、多くの人にとっては「どう持つか」「どう選ぶか」が問われる時代になりました。
まず「衣」。かつて衣服には、体を守るために丈夫で長持ちすることが求められていました。それが徐々に安い衣類が大量に流通し、流行の移り変わりも非常に速くなっていきました。その一方で、本当に気に入った服を長く着続けたり、修理しながら大切に使ったりする価値観も見直されています。また、環境への配慮や快適性を重視し、機能性の高い衣服を選ぶ人も増えています。
「食」もまた、同じ流れの中にあります。本来、生き物は食べるために日々活動しています。しかし、しばらく前から、人間の暮らしは「食べるため」だけではなくなり、食に効率や時間短縮が優先されるようになりました。食事は時に、単なる栄養補給へと変わってきたのです。それでも近年は、旬の食材や郷土料理、発酵食品などに改めて注目が集まっています。誰が作り、どのように育てられたものを食べるのかを意識することは、地域や自然とのつながりを取り戻すことにもつながっているのです。食の熱中小学校の大きなテーマです。
そして「住」。元来住まいとは、雨風や外敵から身を守るためのものでした。やがて時代が進むと、広く立派な家を持つことが豊かさの象徴となりました。しかし今は、働き方や価値観の変化によって、その考え方も変わり始めているようです。広さや所有そのものよりも、心地よさや自分らしさを重視する人が増え、地方移住や古民家再生に魅力を感じる人も少なくありません。
多くを次々と所有することよりも、自分に本当に必要なものを知り、それを大切に使い続ける暮らし。本当に価値のあるものを楽しむ暮らし。そんな人間的な生活の中に、これからの時代の豊かさやしあわせがあるのではないでしょうか。

「食熱通信第26号」発行:食の熱中小学校事務局(一般社団法人熱中学園内)
公式サイト:https://shoku-no-necchu.com/

Mail to:hello@shoku-no-necchu.com
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