食熱通信vol.21
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食の熱中事務局
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2025年12月15日

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第5期第2授業は趣向を変え、あらかじめ校長の講演を動画にアップし、それを見て頂いたうえでガーデンパーティーで質疑応答、懇親会となりました。

座学: 2025年11月15日(水曜) 12:00 ~ 16:00 会 場: 横浜高台のガーデン
*テーマ: テーマ 「デスティネーションレストランの魅力」
~関東周辺と東京の店を訪ねてみよう~
*講 師: 柏原光太郎 先生 (食の熱中小学校校長)


柏原でございます。食の熱中小学校も早いもので5期目です。今期、1回目は石川県副知事の浅野さんにお話しいただき、2回目がガーデンパーティーとなっています。今回は私の本の宣伝も兼ねて、デスティネーションレストランの魅力をお話ししたいと思っています。
この学校でこれまでに何度もお話ししてきたことでもあり、先ほどの三上さんのシアトルの話や、高知ツアーの振り返りレポートにもそのエッセンスが入っていましたが、東京には何でも食材はありますが、東京に来るまでに時間がかかり、地方で獲ってから、早くても2日、遅いと豊洲に行くまでに1週間ぐらいかかる。
一方で地方は朝どれの食材が昼には並びます。新鮮な食材がたくさんありますし、足が速くて東京まで送れない食材もある。そうした、その地域にしかない食材に魅せられ、移住してレストランをつくる方々が増えています。

いま、デスティネーションレストランやガストロノミーツーリズムが、「食文化を訪ねる観光」として注目されています。10月19日に出演したテレビ番組「柏原光太郎の食紀行」でもご紹介した糸魚川は、食の熱中ツアーでも2回訪れたところですが、糸魚川の食文化は、2つに分かれていた大陸が重なり合った地であるフォッサマグナがあることで非常にバラエティに富んでいます。糸魚川はけっして有名な観光地ではありませんが、そんなところにも豊かな食文化があるのです。
あらためて、食の熱中小学校とは何か。私は、東京での座学とツアーの両輪で、地方の食文化を重層的に理解する里山プラットフォームなのだろうなと思っています。ガストロノミーツーリズムが話題になってきている今の時代にフィットしていて、最近は私たちがやっていることと同じ取り組みをする方が増えていると感じています。生徒でありJALパックにお勤めの黛さんもこうしたツアーをつくられています。
なぜガストロノミーツーリズムが話題なのか。今年インバウンドは4,300万人になると言われています。去年は3,700万人でした。台湾有事問題で中国人が来なくなっていますが、4,000万人は確実に超えます。これは史上最多、コロナで24万人まで落ち込んだところからの回復です。
ではインバウンドの人たちが日本を目指すのはなぜか。世界中の観光好きの人に「コロナ後に行きたい国」を聞くと、大体の調査で日本がトップになり、その理由は「美味しいものを食べたいから」。しかも「地方の美味しいものを食べたい」と言うんです。
なかでもいまの富裕層は、豪華な車や飛行機に乗ってやってきて豪華なホテルに泊まって贅沢な料理を食べてワインを飲んでというイメージではなくて、誰も行っていないようなところにいち早く行って食べて、ネットでそれを伝えて、最初に見つけたのは俺だよと言いたい、そんな消費行動だと言われています。つまり、だれもが訪れている食べログ有名店とか東京や京都のミシュラン店の3つ星店などではなく、 地方で皆がなかなか行っていないような美味しい店がこれからトレンドになるということです。
去年訪日したインバウンドは3,700万人の消費額は8兆1,000億円でした。飛行機代は含まれていません。これ、自動車に次ぐ2番目の輸出規模です。つまり、今や日本の中でインバウンドの消費額はそれぐらい重要な産業になってきています。これをもっともっと伸ばす、観光立国の取り組みが重要になっています。
オーバーツーリズムの議論は確かにあります。もちろん、京都とか大阪とか東京の下町など一部はものすごく混んでいて大変なところはあります。それもよくわかっているんですけれども、それは個々の町、個々の地域で解消するべく施策をもっと考えなくちゃいけないと思っています。世界の観光客事情を見てみると、フランスは人口6,800万人に対しインバウンドが1億人。人口の1.5倍が来てしまっています。でも日本は人口1億2,000万人に対し4,300万人。まだ4割程度です。まだまだ日本は人を呼び寄せる余地はあり、またそれだけの魅力もある国と言えると思います。政府は2030年にインバウンド6,000万人、消費額15兆円を目指しています。地方に人を呼び寄せるにもウェルネスツーリズム、アドベンチャーツーリズムなど様々な分野がありますが、現在の外国人旅行者は美味しいものを食べたくて来るわけですから、もっと日本の美味しいものを知らしめるべきであり、地方の食文化がその根幹になると思っています。
地方にデスティネーションレストランが増えている理由はなんでしょうか。先ほど言ったように、東京には何でもあるけれど、地方には地方にしかない尖ったものがあるからです。たとえば東京では名前が付かない、少ししか獲れなくて豊洲でも扱えないような魚、東京には来ないんだけどすごく美味しい魚ってあります。野菜もそうですが足も早いので地方でしか消費できないわけですね。また東京に持ってくるにはサイズも揃えないといけない。アスパラガスは20cmのものにしてくださいとなるわけですが、実は小さいのを生のままかじるのが美味しいんです。
第4期では、朝の4時半に畑のトウモロコシをかじりに行くという十勝のツアーがありました。トウモロコシは、実は陽が出る前に、もがずに枝にぶら下がったままガブリとかじりつくのが一番美味しいと言われていて、東京ではできないからじゃあ現地に行こうよということでできた企画です。参加した綛谷教頭は、トウモロコシってジュースみたいに美味しい、と表現しました。地方ならではの体験です。


ただ、地方には今まで美味しいレストランがなかなか誕生しませんでした。理由は2つあって、1つは、地方は食材を都会に供給する基地的な役割であり、食材は東京に送るものと考えられていたこと、もう1つはわざわざ素敵なレストランを作っても今までは訪ねてくれる人がいなかった。
ところがネットができてものすごい量の情報が世界中に届くようになると、美味しいらしい、変なシェフがいるらしい、と話が広がって、辺鄙な場所でも人が集まるようになりました。富山に「レヴォ」という、富山駅から2時間ぐらいかかる山奥のレストランがありまして、人口400人にも満たないその地区に、年間8000人が「レヴォ」の料理を食べに訪れます。しかもそのうち1000人はわざわざ海外から来るインバウンドで、観光もないのでそのためだけに来ます。それぐらいの、とんがったことをやっていると、ちゃんと生活できるどころかそこから世界に発信することができるし、もう食材供給基地ではなく、逆に東京から人が来るようになっている。

レヴォと同じように、そちらに舵を切ろうと思う人たちがたくさん出てきたと言えます。山形県の鶴岡の「アル・ケッチァーノ」の奥田さんも、東京修行後に地元の食材の豊かさに気づき、日本中に鶴岡を知らしめようとしてレストランを造られました。そんなわけで今、日本には実はすごく素敵なレストランが今地方にたくさんできています。
食熱のツアーは全国に行きますがその中で関東近辺が少なかったため、ここからは関東のレストランをご紹介します。
まず軽井沢では、今ものすごく素敵なレストランが増えています。その中でも「MANO」は、まだ29歳の西本さんというシェフが、もともとスペインでスペイン料理を修業した後、田舎料理に魅せられて、軽井沢で始めた店です。近所の山でキノコを採ってきてこんな料理作りましたとか朝クレソンを摘んできましたとか、鯉の養殖のこの辺りで一番いいのを持ってきましたとか、そこでしかできない料理を出してくれます。天気が良いと外にテーブルを出して居酒屋をやったりしますので、そんなときに行くのも楽しいです。まだ予約は比較的取りやすく、駅から車で15分、カウンターだけのところです。
次は宇都宮駅から車で10分ぐらいのところにある「オトワレストラン」です。アル・ケッチァーノよりもっと早い、20年前からあるデスティネーションレストランです。とても綺麗な料理を作るシェフの音羽さんは、フランスでアラン・シャペルという巨匠のところで修業されました。そこにはフランス中からシェフが集まるんですが、皆修業後は、人口100人とか200人みたいな「おらが村」に戻って開業すると言う。自分は東京で店を開くと言うと、「東京に面白い食材があるのか? 東京で作ったって面白くないだろう」と言われ、最初は意味がわからなかったけれど修業していくうちにようやく理解できて、地元で開業したというのです。

魚は宇都宮では獲れないので他から取り寄せますが、それ以外は地産地消で、東京ほど高くもありません。最初にデスティネーションレストランの面白さを知りたいと思ったらここに行かれると良いかなと思います。
次は、鎌倉の「アンチョア」です。最初代々木上原でやっていたのですが、やっぱり野菜と魚の美味しいものを出したいと思って鎌倉に移住したシェフのお店です。路地の奥まったところにあって、中もこじんまりとしていて、カウンターよりテーブルで楽しむのが楽しいかな。そして、海が近い場所なので、夜よりお昼からワインを飲むのがいいですね。ピンチョスタワーという小皿の料理が最初に出て、これをスペインの白ワインと一緒に楽しむのがおすすめです。お魚料理が出て最後にパエリアというのがアンチョアの美味しい料理です。ちなみにアンチョアっていうのは、スペイン語でアンチョビのことです。

次は茨城の「よし町」という和食屋さん。土浦出身のご主人がお父さんのお寿司屋を継いで日本料理を始めました。魅力度ランキング最下位付近だった茨城ですが、最近は食でPRが進んでいて、例えば1本1万円もするレンコンを作っている農家さんなんかも出てきています。茨城というとあんこうなんですが、こちらの木村さんがあんこうだけは北海道産が美味しいと言うことで北海道から取り寄せて、それ以外はほぼ茨城のものを使って美味しいものを食べさせてくれます。

富山の「柳緑」、元「和香奈」は美味しい寿司屋で、移転したばかりでまだ知られていません。私も12月に行くので楽しみにしていて、今が行きどきです。
山形赤湯温泉の「シンチェリータ」は、昭和の典型的な大温泉旅館の跡に作ったイタリア料理店です。旅館を継いだ南さんが、もともと新潟にいた原田シェフを引っ張ってきて、新潟と山形の食材を使って奏でる素晴らしい料理です。デスティネーションレストランアワードを受賞したので少しずつ知れ渡ってきていますけど、まだまだいけると思います。赤湯温泉もすごくいいので、ぜひ合わせて行ってみてください。

これまで、東京から日帰りか1泊で行けるレストランを6つ紹介しました。次は、東京で私が好きな店を紹介します。
最初は、新宿から1時間ほどの、武蔵五日市の「ラルブル」というフランス料理屋です。帝国ホテルのラ・セゾンというフランス料理店のメインダイニングで修業した松尾シェフがオーナーシェフとして古民家でフランス料理を出しています。東京の食材しか使わないのですが、魚も伊豆大島に行けばたくさんある、ということで東京の魚しか使いません。また実は東京にはヤギのチーズなどを作っている人なんかも結構多いんです。

次は、ビストロが好きな方におすすめなのが、渋谷「ビストロバー あ ヴァン こだま」です。フランスのビストロ料理そのまま、本当にフランスっぽい料理しか出さない店です。多分、僕が東京で一番好きなビストロなんですがなぜか予約は取れやすいです、シェフが「お酒を飲まない人は来ないで」と言うほどで、お酒も安くて料理もボリュームがあってみんなでシェアして楽しめます。

天ぷらですと、勝どきの「蕎麦 天ぷら 翔」、旧名「勝どき そば よし田」です。都内の2つの有名店で修業した若い店主がつくる天ぷらと蕎麦が美味しく、銀座の有名なところ行くよりはここの方がいいと思っています。予約も取りやすいです。

最後は湯島の割烹料理の「いづ政」です。湯島といえばいわゆる花街で、その花街で出す料理で、もう70ぐらいの大将がやっている、アラカルトな割烹料理です。割烹料理というとコース料理ばかりでそれはそれで楽なんですけど、季節の美味しいものを自分で選ぶ楽しみがなかなかない、でもここに行くと、最初に八寸とお椀が出て、あとは自分で好きなものを頼める楽しさがあります。湯島の散策と合わせて楽しめます。
これまで東京4県ほどで全10店を紹介しましたが、まだまだ東京ですと下町、浅草の方にも素敵な町がありますし、焼き鳥や焼き豚、千円でベロベロになれるせんべろの店もたくさんあり、訪ねる喜びがあると思います。
でもそういう店ってどうやって見つければいいの? とお感じになった方は、聞いていただければ私が知っている分はこんなリストを紹介できると思います。
そして。10月29日に発売しましたガストロノミーツーリズムの本には日本のレストラン450件が掲載されています。東京や大阪の都心の店はほとんどありませんが。皆さんとツアーで行くのもいいなと思っていますので、そのときはぜひご一緒ください。どうもありがとうございました。

ガーデンパーティ(柏原校長のWeb講義)レポート 亀田俊
2025.11.15 横浜の高台ガーデンにて

「ガーデンパーティー」なんと魅力的な言葉でしょう!11/15、素晴らしい秋晴れの中、70名の生徒さん、先生方が集まり、第2回の授業と近郊ツアーがおこなわれました。まずは「アルコール」これがなくては始まりません。







焼き鳥、そして常設のピザ窯でつくられるピッツァは出来立て熱々!





話もはずみます。
今回は能登地方の名産がマルシェとして並びました。





手作り料理の数々!今回は約40品が机に並びました。






夕陽と共に終了!皆様、ご堪能いただけましたか?ご苦労様でした。
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米国シアトルツアー 三上直子さんレポート 初の海外ツアーが実施されました!




















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高知県越知町 2025年10月11日(土)〜13日(月) 2泊3日
ビデオレポート by 仁淀ブルー熱中塾
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事務局より:
もう1度行きたくなるレストランには、味の良さだけではない“心地よさ”があります。まず一皿一皿に店の想いが感じられ、派手さよりも誠実さが伝わる料理が、食べる側の記憶に静かに残ります。さらに、過度に干渉しないのに温かみを感じる接客や、居心地のよい照明・音・空間づくりが、「またここで食事をしたい」という気持ちを育てるのでしょう。常連客だけでなく初めての人にも開かれた雰囲気があり、季節ごとの食材の変化や小さな驚きが感じられるたびに異なるおいしさの表情を見せてくれる。そんな店は“行く理由”ではなく“戻りたくなる理由”を静かに積み重ねて、日常の中でふと恋しくなる存在になるのだと思います。

「食熱通信第21号」発行:食の熱中小学校事務局(一般社団法人熱中学園内)
公式サイト:https://shoku-no-necchu.com/

Mail to:hello@shoku-no-necchu.com
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